版画の妙味

海老塚 耕一(Koichi Ebizuka) 草間 彌生(Yayoi Kusama) クラウス・キリシュ(Klaus Killisch) 坂口 登(Susumu Sakaguti) 辰野 登恵子(Toeko Tatsuno)
堀 浩哉(Kosai Hori) ヤン・フォス(Jan Voss) ロベルト・マッタ(Roberto Matta) 若林 奮(Isamu Wakabayashi)

弊館では
版画展「 版画の妙味 」
を開催いたします。

会期:2019年7月6日(土)- 9月29日(日)
開館時間 :11時~18時30分(入館18時まで)
開館日 :木・金・土・日
休館日 :月・火・水
(展示替および館内メンテナンスのため、上記期間外は休館)
入場料 :一般 500円/大高生 400円/小中学生 300円

主催 :東京アートミージアム
企画 :一般財団法人プラザ財団

概要

版画の面白いところはその技法もしくは版を何回重ねるか、作家それぞれの創意と工夫で作品が完成する。一点一点その技法と制作年代を照らし合わせて鑑賞すると思い掛けない作家の内面に辿り着くことが出来る。そして黒衣のように見えないが刷り師の苦労も垣間見えるのである。

本展では、世界中で人気を誇る作家の作品、海外作家の作品、40版も重ねて作られた作品など9名の作家による版画作品37点を展示します。

解説

版画の歴史を現在から顧みると、1970年代に重大な変化が生じたことが分かる。この時代には、1960年代のポップ・アートやコンセプチュアル・アートなどの影響を受けるかたちで、描くことを極端に省略した作品が数多く登場した。その際に参照されたもののひとつが、社会の中に大量に流通するようになった画像である。アンディ・ウォーホルによるマリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーの印刷画像を用いたシルクスクリーンに典型的に見られるように、版画は写真と密接な関わりをもつようになったのである。

それ以前、少なくともルネサンス期以降、版画と近接する位置にあったのは絵画である。この時代には、マンテーニャやポライウォーロなどの画家たちが銅版画を手掛けるようになり、版画を芸術へと引き上げることが試みられる。その中で、版画には、金属の表面を装飾する硬質な線ではなく、ドローイングに近似する自由闊達な線が求められることになった。1970年代の版画から失われたのは、こうした線の地位だったといえる。

現在の版画はこうした線の復権と関連するかたちで理解することができる。本展の出品作品では、それぞれ個別の表現であるにも関わらず、どれにおいても線が重要な役割を担っている。それは、具体的なかたちを規定する輪郭の線であったり、それを逸脱してゆこうとする線であったり、空間的なイリュージョンを暗示する線であったり、フラットな画面を指し示す線であったり、自由に展開してゆく自律的な線であったりする。こうした線がもたらす表現によって、版画が絵画やドローイングと近接する場所にあることが再び表明されることになったのである。

もちろん、版画の線は絵画やドローイングの線とは異なった性格をもっている。それは転写されたものであり、直接的に描かれたものではない。さらに、木版や銅版や石版といった技法の違いによっても線の性格は異なってくる。彼らの版画は、彼らの絵画やドローイングに近いとはいえ、決して同一の表現に回収されるものではない。美術表現において、線は基本となる造形要素である。そこに注目することによって、版画という領域の固有性と、他領域との連続性を改めて考えることができるだろう。

藤井 匡(東京造形大学准教授)